Steely Dan全アルバム雑感想文

Steely DanというのはDonald Fagenと故Walter Beckerというミステリアスな二人が作ったユニットで,なんだかよくわからない歌詞と,凝りまくったコード進行やアレンジで1970年代に世界中で成功した.私はDTMを趣味にしているのだが,多くの編曲オタクとかそういう類の人間は,一度はSteely Danのとりこになり,ドラムやベースをタイトにドライにキメて,augや6th,テンションをここぞと効かせたコードを鳴らさないと恥ずかしくていられないといった病気になる.ところで,みなさんは彼らのユニット名がバロウズの「裸のランチ」由来だとご存知だったろうか.なんというかその由来自体から,こういうスノッブアウトローを気取りたいオタク野郎にピッタリだと嘲笑されるようで良いなと思う.今日なんとなく全アルバムレビューをやってみようと思ったのは,恥を忍んで,いままで聞いたことない曲がチラホラあるから,とりあえず全部聞いておこうと思ったのだ.実際Pretzel Logicより前の2アルバムは聞いたことがなかった.アルバム全体と,一番好きな曲を挙げていくので,興味を持った人はAmazon Musicとか,そのへんのストリーミングサービスには必ず配信されているので聞いてみて.

  • 1972年 Can't Buy A Thrill 「キャント・バイ・ア・スリル」(US #17)

全体:まだサウンドはファンクよりというか,解像度は低い.リズムもまだマシンを使っていないから人間味あるビートだが,下手っぽい.わざとテープをサチュレートさせたようなミックス.悪く言うと曲ごとのバラツキがきつい.メロディアスだが時代を感じさせる,編曲は相変わらずおもしろい.

オススメ曲:「Only a Fool Would Say That」今後の曲調と近いようで,AORよりか割とカントリー風とか意外性があって良い.故ロジャー・ニコルズはかなりカントリー曲のエンジニアをやってるので,その影響だろうか?この曲だけアコギとドラムの音がめちゃくちゃ良い.

  • 1973年 Countdown To Ecstasy 「エクスタシー」(US #35)

全体:相変わらずギターの音が古臭い(70年代だからね),なんとなくライン取りして後からリアンプしてるのかなと,このころの技術の限界を感じるけど味があり良い.ピアノの低音をバッサリ切り落としてしまう音作りが出てくる,リッチで完璧なコーラスはクレジットが8人もいて,まさにザ・SDという感じで大変気持ちが良い.あと淡い不気味なジャケットが好きだ.編曲の出来はよくわからない,My Old Schoolなんかは普通にC-D-G(in G)という感じで素直なコードがでてくるので驚く.King of the Worldもなんだかコードは単調だけど,他が面白いのでわざとやってるのだろう.なんだかんだ自分の中でベスト3に入る名盤だった.ヒット曲はないけど,フェイゲンも最も気に入ってるらしい.

オススメ曲:「Razor Boy」大分,Aja/Gaucho辺りの黄金期のサウンドと編曲に近づいたけど,まだ実験的なスライド・ギターでバッキングしたり,この頃の彼らにしかできない試みが楽しい.Your Gold Teethとどちらを推すか迷ったが取り敢えずコーラスが美味しいのでこっちにした,今も迷ってる.

  • 1974年 Pretzel Logic 「プレッツェル・ロジック」旧邦題の副題は「さわやか革命」(US #8)

全体:相変わらずミックスのクオリティは黄金期(エリオット・シャイナーとか)には遠いが,名曲揃いすぎて本気で勿体無いと思う.あとやっぱりギターがダサい.ドラムはいきなりかっこよくなってきた.やたら邦題がやりたい放題になってきたので日本でも売れてきたのだろうか.「さわやか革命」とか相対性理論みたいなクソアホっぽいセンスがまったくあってなくて面白い.

オススメ曲:「Rikki Don't Lose Your Number」これは間違いなくないですか? 4声の分厚いコーラス,ほぼテンションないコードなのに,裏拍のリズムが不思議な緊張感を出す.サビの構成はAjaに繋がる.ベースパターンは何かジャズの曲に元ネタがあるらしい.ついサビを口ずさむ引力がある.あとコーラスの人は同時期SDと同じような立ち位置だったEaglesに参加するらしい.この辺りのドラマは面白い.

  • 1975年 Katy Lied 「うそつきケイティ」(US #13)

全体:バンドメンバーが沢山やめたので音が綺麗になった(ひどい).相変わらずギターがときどきダサいけど,ついにほとんどの曲をジェフポーカロが叩くようになったドラムがかっこいいので気にならない.とくにBlack Fridayなんかはザ・ポーカロって感じのビートが聞けます.ロジャーニコルズがdbxでノイズゲートかけ始めたので,時間方向にもかなり整理されて小綺麗に聞こえる(二人は嫌いだったようだが),たしかにサックスの消え際はかなり不自然だが,後の作品もこんな感じじゃない?完全に完成された編曲から一歩出た実験的な音色も多くて楽しいアルバム.

オススメ曲:「Doctor Wu」問題の変なサックスは気にならないし,SDでここまでメロウな曲は珍しいのでオススメ.やっぱりYour Gold Teeth IIとどちらを推すか迷ったが,ドラムがあまりに出しゃばっててムカつくのでこっちにした.

  • 1976年 The Royal Scam 「幻想の摩天楼」(US #15)

全体:正直このアルバムはあんまりおもしろくないかな?良くも悪くも手グセで作ってる感じがする.一方この辺からギターが劇的にかっこよくなってきた.もう少し太いミックスになると完璧という感じのAja前夜っていう印象.

オススメ曲:「Green Earrings」かなりフュージョン的なクラビのリズムとかギターがエグくてオススメ.Gauchoっぽいコーラスのキメも良い.この後クビになってしまうDenny Diasのギターソロ(前半のコーラスがかかったやつ)も相当イカしている.エリックランドールとのギターソロ対決があまり寒い感じにならずバカっぽくて良いなと思うけど,やっぱりない方がいいか?

  • 1977年 Aja 「彩(エイジャ)」(US #3)

完璧だし耳にタコができるくらい聞いたので何も言えない.

完璧OF完璧なので何も言えない.ぜひNightflyも聞いてね.

  • 2000年 Two Against Nature 「トゥー・アゲインスト・ネイチャー」(US #6)

全体:相変わらず完璧だけど,前作の教科書的な完璧さから20年も経つし(もちろんお互いのソロ活動自体がSDだったわけだが),完璧主義プロデューサのゲーリーカッツもいないしで,なんか宗教っぽいというか変態的な音の良さに向かっていて,リムショットスネアのカッとギターのミュートのカリッを何msズラすと立体感があって耳が良くなるみたいな最高の音.SD史上もっとも良い音だと思う.録音は90年代なのだが,もうProtoolsで収録されてる.思えばDAWの時代になってきた頃もエンジニアのロジャーニコルズは自分でプラグイン作ったりテクノロジーのキャッチアップが凄い.グラミー賞なんと四冠という偉業を達成している.

オススメ曲:「Jack of Speed」やっぱり非常に人気のあるWest of Hollywoodと迷ったが,完全にファン向けに喜ぶやろ?って感じが癪に触るので,とりあえずギターが一番最高なやつで選んだ.

  • 2003年 Everything Must Go 「エヴリシング・マスト・ゴー」(US #9)

全体:前作よりもさらにやりたい放題というか,完璧な枠組みからいかにアドリブっぽい感じを散りばめるか頑張った感じがする.ベッカーがリード歌ったり,全曲ベース弾いたり頑張っている.

オススメ曲:「Godwhacker」たぶんSteely Danの中でも一番聞いてる曲なんじゃないかな

最後にオススメのアルバムベスト3

1. Gaucho
2. Countdown to Ecstasy
3. Two Against Nature